2017.05.23

おいしいロシア シベリカ子/イースト・プレス

おいしいロシア (コミックエッセイの森)
シベリカ子
イースト・プレス (2016-09-07)
売り上げランキング: 5,811

よその国のご飯って、どうしてこんなに美味しそうなんだろう。不思議でならない。

シベリカ子による、ロシア滞在コミックエッセイである。全編カラーで絵も可愛い。レシピもシンプルで、特別な材料がなくても作れそうなものばかりなのがありがたい。

まずは、ロシア版サワークリーム「スメタナもどき」を手始めに、である。

2017.05.14

パークアヴェニューの妻たち ウェンズデー・マーティン/講談社

パークアヴェニューの妻たち
ウェンズデー・マーティン
講談社 (2016-04-15)
売り上げランキング: 67,739

ニューヨークの高級住宅街に住むお金持ち達のド派手な生活に驚く、というよりも、ニューヨークの売れっ子ライターによる、育児エッセイだと思って読むと面白い、んじゃないかと思う。もちろん、私は彼女を知らないから、その面白さは半減しているのだけれど、ニューヨークにもこうやって物を書いている人がいるんだなあ、と思いを馳せるのは、悪い気分じゃないのである。

2017.05.03

太陽の坐る場所 辻村深月/文春文庫

太陽の坐る場所 (文春文庫)
文藝春秋 (2012-09-20)
売り上げランキング: 30,704

旧友の集まるクラス会で一番の話題といえば、そこにいない人間についてなわけで、その人が今や押しも押されもせぬ人気女優ならなおのこと、卒業以来一度も顔を出したことのない彼女をどうやって誘おうか、思い出話以上に膨らむ期待と戸惑いが、その場を盛り上げる。でも、懐かしさだけが彼女に会いたい理由なんだろうか? みんな本当は誰に会いたいんだろう。

『太陽の坐る場所』は、仲の良かったグループ5人の今と昔が、5章立てでそれぞれ語られる青春ミステリーである。女優となった不在の太陽キョウコをめぐる、ひとつながりのミステリーとして読むこともできるだろうし、各章をそれぞれ独立した5人の物語として楽しむこともできる。それらは、夢を追い続ける苦しさであり、秘められた友情であり、忘れられない輝きであり、私を生きる決意であり、ちいさな恋の物語だったりする。読み終えたらきっと、お気に入りの章や登場人物が見つかるんじゃないかと思う。

私は5章を押す(2章もいいから悩むんだけれど)。最後の場面で、ある人からある人へ、小さな紙が手渡される。その瞬間、わっと光が差す。柔らかいその光に、とても素直な美しさが感じられるのだ。小説のモチーフである<アマテラスの岩戸隠れ>が、一番ハマっている場面だとも思う。

たぶん光は過去からやってきた。この光が、明るい未来を約束するものなのかどうか、それは分からない。もしかしたら、この先、主人公の人生は何も変わらないのかもしれない。でも、確かにその時その場に光は差し、誰にも予想することのできない未来が開けたのである。その木漏れ日のような光は、普遍的で、それぞれ違った形をとるにせよ、ここに登場する5人に等しく降りそそぐ。

その未来への開かれはやっぱり青春だなあ、と思うのである。

2017.04.05

心変わり ミシェル・ビュトール/岩波文庫

心変わり (岩波文庫)
心変わり (岩波文庫)
posted with amazlet at 17.03.31
ミシェル・ビュトール
岩波書店
売り上げランキング: 273,408
2017.03.11

女性作家が選ぶ太宰治 講談社文芸文庫

女性作家が選ぶ太宰治 (講談社文芸文庫)
太宰 治 江國 香織 角田 光代 川上 弘美 川上 未映子 桐野 夏生 松浦 理英子 山田 詠美
講談社
売り上げランキング: 279,120

「女生徒」

この短編を読んで、舞城王太郎という作家を思い出した。どうしてかって言うと、「女の子」が書かれているからなのである。可愛らしさ、って、こういうことなんだろうな、と思う。とても現代的で、そうキュート。

「恥」

ストーカー気質の女性を描いた短編なのだけれど、このちょっと面倒くさそうな人物を、茶目っ気よく書いてしまえるのが太宰治で、バタ、バタと動き回る女性のなんと魅力的なことか。ユーモラスな一編。

「母」

選者の川上弘美が<しびれます>と描いている通り、最後の一行は奇跡ですらある。

「古典風」

こちらも、最後の一行がすべてを物語る。たぶん、ここに作者が書いた(内容でなく文字としての)<幸福>は、真っさらで、純白の澄み渡った<幸福>である。でも、だからこそ、どこか狂っている。<幸福>という言葉のなかには、「本当に?」という、小さくも拭い難い疑念の染みが、いつだって取れずに残されていて、でもそれがゆえに<幸福>が<幸福>足りえているのだとしたら、あまりに漂白された<幸福>は、やっぱり狂気なんじゃないか、と思うのだ。太宰治の意地悪なところを見た気がした。

「思い出」

太宰治は、女性を「女性」としてではなく、「その人」として書けてしまうのだ。だからどの女性も、生き生きとして、おもしろい。

「秋風記」

甘美、と選者の松浦理英子はこの小説を評する。言い得て妙。死はやっぱり、甘い。

「懶惰の歌留多」

それが、書評でも、評論でも、ビジネス文書でも、メールでも、なんだっていいのだけれど、書きあぐねた時は、なんでもいいから書き出してしまうこと。そうすると、案外なんとかなったりするもので、結局は生むが易しなんだよなあ、と思うことが結構ある、というより、毎度である。この精神を体現した短編が「懶惰の歌留多」である。いろはにほへと~、書き出しの頭文字なんて、よそから貰ってきたもので十分。それさえ決まってしまえば、その一語が、一文を生んでくれる。一文が、次の一文を生み、またその一文が、あらたな一文を用意し、生む。繰り返され、ある時、そのまとまりは小説になる。

ちなみに、この短編、冒頭から恨みつらみというか、仕事しない言い訳がつらつらと吐露されている。で、その終わりに<ジッドは、お金持ちなんだろう?>とあって、笑ってしまう。なんだろう、この素直な妬みは。これが、ぽんと書ける太宰治は、そりゃあ愛されるよなあ。

収録作:「女生徒」「恥」「母」「古典風」「思い出」「秋風記」「懶惰の歌留多」

2017.02.21

宝石商リチャード氏の謎鑑定 辻村七子/集英社オレンジ文庫

宝石商リチャード氏の謎鑑定 (集英社オレンジ文庫)
辻村 七子
集英社 (2015-12-17)
売り上げランキング: 4,835

辻村七子による「宝石商シリーズ」の第一弾である。大学生の中田正義は、ある日、ひょんなことから、宝石商のリチャード・ラナシンハ・ドヴルピアンと出会う。超のつくほど美形のリチャードは、訪問販売のため日本を訪れていたのだが、質の悪い酔っぱらいに絡まれてしまう。そこに割って入ったのが、正義だったのだ。

本作は、専門家探偵と天然助手のバディものである。探偵の蘊蓄(この場合はもちろん宝石)に、人情味あふれる物語、と王道をいく。

リチャードが正義にロイヤルミルクティーの淹れ方を教える場面で、おっ、と思った。

コンロのつまみをガチガチ動かす手つきのおかげで、俺は初めてこの生きた宝石も人の子なんだと思えた。

宝石のような<人間やめたレベル>のイケメンの人間臭さを表現するにあたり、コンロのつまみを持ち出す作者の感性、侮りがたい。なるほど、コンロのガチガチに、イケメンも凡人もないのである。

2017.02.17

インサート・コイン(ズ) 詠坂雄二/光文社文庫

インサート・コイン(ズ) (光文社文庫)
光文社 (2016-11-25)
売り上げランキング: 40,501

私はスーファミ/プレステ世代で、ハードゲーマーというほどではないけれど、今でもゲームで遊んでいる。もっぱらオフラインで週に何時間か、といったプレイスタイルである。悲しいかな、休みの日ともなれば朝の五時から起き出し、居間にて電源を入れる、なんていうことは、もうない。それでも、思い出したかのようにプレイするのも案外楽しかったりして、ゲームを卒業するなんて、今のところ、夢のまた夢なのであった。

さて、詠坂雄二の『インサート・コイン(ズ)』は、マリオやぷよぷよ、ドラクエといった、ゲームを題材にした青春ミステリーである。取り上げられたゲームを見ればお分かりだろうが、30代直撃の内容となっている。もちろん、だからと言って、文章や内容が古臭いなんていうことでは全然なく、物語はむしろ若々しいほど。謎解きの面においても、「マリオに登場するキノコはなぜ動くのか」などといった素朴な問い立てや、その解釈が生みだす心地よさは、高田崇史や鯨統一郎といった作家の描く歴史ミステリーを彷彿とさせ、この手のミステリーが好きな人は、きっと気に入るんじゃないかと思う。

どの短編も面白いのだけれど、ひとつお気に入りをあげるなら、「そしてまわりこまれなかった」になるだろうか。

「そしてまわりこまれなかった」は、こんな話だ。老舗ゲーム誌に文章を寄せる、26歳を迎えたばかりのライター、柵馬朋康のもとにある日、<ドラクエⅢで最大の伏線が何かわかるか?>、たった一行、そう書かれた年賀状が届く。差出人は、宇波由和。柵馬の幼なじみで、ゲーム仲間だった男である。ところが、宇波はその年賀状を投函した直後、自殺していた。宇波が年賀状に遺した言葉の真意とは。

読んでいて、青春の終わりというのは、つまるところ「引き受ける」ことに始まるんじゃないかと、ぼんやり考えた。この短編には、ドラクエではお馴染みのある定型文が登場する(この言葉の物語への活かし方は、本当に素晴らしくて、センスあるんさな)。この言葉を、柵馬は静かに受けとる。それは、彼が積極的に引き受けた、というよりも、あまりに自然に、あたかも昔からの決め事だった、かのように、彼と彼の過去、これから彼が生きる世界が、友人の遺した、ゲームに登場する決まり文句に、しかしそれゆえに、凝縮され、差し出され、それを、彼は、だからこそ、引き受ける。引き受けるということは、自分の中に他者を招き入れる、ということである。柵馬はその言葉を通じて、友人の人生を、引き受けたのである。

他者を招き入れた柵馬は、もう、かつての柵馬たりえない。だからやっぱり、彼の青春はここで終わるんだと思う。他者を引き受け、柵馬はこれから違う私を、生きなければならない。これを青春の終わりと言わずして、なんと言おう。

しかし、終わりはまた同時に、始まりでもある。彼の青春は終わりを告げた。でも、きっとこれから、彼のあらたな「伝説」が、始まるのだ。

青春ミステリーの名品だと思う。帯で、米澤穂信が推薦文を書いているのだけれど、むべなるかな。

2017.01.25

男性作家が選ぶ太宰治 講談社文芸文庫

男性作家が選ぶ太宰治 (講談社文芸文庫)
太宰 治 奥泉 光 佐伯 一麦 高橋 源一郎 中村 文則 堀江 敏幸 町田 康 松浦 寿輝
講談社
売り上げランキング: 571,850

芥川龍之介や谷崎潤一郎は、少しばかり読んだことがあったのだけれど、そういえば太宰治は読んだことがない、ということに今更ながら気づいた。どれ、と思って読んでみる。と、これがすこぶる面白い、というより、素晴らしくないですか?ちょっとため息が出そうである。

たとえば「富嶽百景」。富士の頂角についての講釈からはじまって、<「いいねえ。富士は、やっぱり、いいとこあるねえ。よくやっているなあ。」>とくる。このすっとぼけているようで、大らかな感想が、鈍角な富士そのものずばりを言い当てる。たとえば「饗応婦人」では、夫人という存在の可笑しみを、<走り狂い>の一語で表現してしまう。「道化の華」のようなメタ・フィクションもあれば、「畜犬談」のようにスマートな短編もあって、自在である。

上手いなあ、と思う。小説が上手いだけじゃなくて、ちょっと鈍くさくて、あたたかいところがミソだ。そういうところが、わたしの心をくすぐるのだろう。

『女性作家が選ぶ太宰治』もあるとのことで、いつか読んでみたい。

選者/収録作 奥泉光「道化の華」佐伯一麦「畜犬談」高橋源一郎「散華」中村文則「渡り鳥」堀江敏幸「富嶽百景」町田康「饗応夫人」松浦寿輝「彼は昔の彼ならず」 

2017.01.10

東京を生きる 雨宮まみ/大和書房

東京を生きる
東京を生きる
posted with amazlet at 17.01.10
雨宮 まみ
大和書房
売り上げランキング: 6,255

彼女は「彼女自身」へと追いつくために、前へ前へと、走り続けたのだろうか。決して縮まることのないその距離に、疲れてしまったのだろうか。あるいは、気づいた時にはもう、彼女は「彼女自身」を追い越してしまっていた、のかもしれない。

2017.01.01

たべるしゃべる 高山なおみ/文春文庫

たべるしゃべる (文春文庫)
高山 なおみ
文藝春秋 (2012-03-09)
売り上げランキング: 165,509

料理家の高山なおみが、知人の家や職場を訪ね、よそのお宅の台所で料理し、食べ喋る、といった内容の本である。

登場する人たちは、予約一年待ちのプリン屋エゾアムプリンのカトキチとアムや、SUPER BUTTER DOGの元ボーカルで現在のハナレグミ・永積タカシ、雑誌『ku:nel』のアートディレクションを手がける有山達也だったりと、通好みの人選となっている、と思う。と思う、と書いたのは、実のところ、私の知っている人がいなかったからで、ひとりひとり検索しながら読んだ。おかげで彼らを知った今、ちょっとだけオシャレな気分でいる。

読んでみると、高山なおみの「君」「ちゃん」づけが気になった。彼女の呼びかけは、まるで学校の先生みたいだ。登場する人たちは、生徒たち。登場する誰もが、その「純粋さ」において子供みたいな人たちだから、「君」「ちゃん」づけがとてもよく似合っている。

「君」「ちゃん」のよいところは、呼ぶ側が込めた親しみを、呼ばれる側もはじめから知っている、というところにあると思う。「さん」だと、知っているというところが、もう少しぼやけている気がする。この本のお喋りは、そういう親しみを前提にしたお喋りだから、読者もゆったりとした気分で読むことができるんだろう。

お喋り相手との心地よい距離感。美味しそうな料理。文句なしの時間である。