2015.05.09

未来の社会学 若林幹夫

未来の社会学 (河出ブックス)
若林 幹夫
河出書房新社
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社会全体で「輝かしい未来」という夢を見ることが難しくなっていった一方で、個々人が自分の「夢」をもち、「将来」に向けてそれを実現してゆくための準備と学習が求められるようになり、「夢はかなう」とか、「夢をありがとう」といった言葉が、決まり文句のように終始耳に入り、目にするようになった社会。・・・(中略)・・ それぞれの未来を一人ひとり、自己の責任でかなえるべきだという圧力のなかにある。そこにあるのは、「歴史」という大きな物語を見失って迷子になった一人ひとりの、小さな未来の物語への脅迫である。

将来設計、事業計画、老後の蓄え、技術や制度的進歩。社会のあらゆるところに点在する「未来」は、いまや人心に深く根ざす「未来工学」となった。私たちは「時間」を管理し、また「時間」に管理されながら、「未来」に向かって生きている。なんだ、それって当たり前のことじゃあないか、というむきもあろう。しかし、自明な出来事を扱う試みであるからこそ、この本は面白い。

とりわけ、社会学者真木悠介の<虚無化してゆく不可逆性>と<抽象的に無限化されうる等質的な量>の概念を引き継ぎながら、近代の成立を「時間」の視点から再考する第3章が、目を引く。読めば、近代以前以後で、人のあり様はずいぶんと変わったようだ。その違いは、歴史の問題にとどまらず、存在論的問題へも射程に捉えている。この話題、この1冊で終わるに惜しい。

「未来工学」の息苦しさを語りながらも、結局最後には、<希望とは人間である>と力強く語る作者の大きな背中に、酔いしれようではないか。


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