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2015.08.03

大陸の細道 木山捷平

大陸の細道 (講談社文芸文庫)
木山 捷平
講談社
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木山捷平、1904年岡山県に生まれる。68年没。詩人で小説家。飄々とした文章と評された『大陸の細道』は、木山捷平初の長編として新潮社から刊行された。

本書の舞台は1944年、大戦末期の満州であり、木山自身の満州体験をもと描かれる。いわゆる戦争文学だ。戦争文学とは、強張った日常のなかで我を失うことである、というのが、私のちょっとした持論でもあったのだが、『大陸の細道』にそうした気配は感じられない。とかく大らかなのである。

この大らかさは、戦闘が未だ遠いせいなどでなく、作家の魂に由来するものだろう。木山捷平の分身である主人公の男は喘息を患う身、満州の厳しい寒さにだだをこね、知人に会い、酒を飲む。玉露や干し柿を手土産にのらりくらりと移動する。生きているのか、死んでいるのか、ぼんやりとした浮遊感が心地よく、不思議な安心感に包まれる。なるほど、こんな精神の有り様があるものなのかと驚かされ、また、その精神、魂の自由さが、読み手の笑いを誘う。

いよいよソ連軍の進行が始まろうという時、男は現地招集を受け、ボール(爆弾)を抱え乳母車(戦車)に飛び込む訓練に参加する。

四十二年の生涯と、この静まり返って無気味な順天公園と何の関係があるのだろう。何にも関係などありはしなかった。ここに集まっている四十人の老兵も、昨日まで誰一人として、正介と関係ある者はなかった。正介は自分の生涯の中で一度でも一緒に飯を食ったり、酒を飲んだり、話をしたりしたことのある者の中で、誰か一人でいいから、今逢いたかった。いや、逢わなくてもいいから、自分が今此処にいる事を知って貰いたかった。

なんて孤独。なんて寂しさなんだろう。読み終えたとき、皆この男を愛さずにはいられない。


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