2015.08.19

離陸 絲山秋子

離陸
離陸
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絲山 秋子
文藝春秋
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絲山秋子の『離陸』は、過去が過去として確かな「遠さ」をもって書かれた稀有な小説である。過去がちゃんと、よそよそしい。

この小説において、過ぎ去った事は、過ぎた事それ以上の意味を持ちはしないのだろう。過去は現在の伏線などではなく、過去にあった関わりだけが、ただ泡のように現在に現れる。過去と現在の蜜月に楔が打たれ、過去が過ぎ去った時、「遠さ」は言いようのない実感となって押しよせる。

小説らしく仕立てるために、現在と過去を無為に接続しないこと。過去を過去として、追いやること。『離陸』は、人生の寄る辺のなさを書き切ったのかもしれない、と思う。読む価値はある。

この長編を書き終えて絲山秋子は、やはり自分は「短編書き」であったと、その気持ちを吐露している。しかし、書きあぐねた長編が、意図の有無を超えて、こうした形で結実するのである。作家絲山秋子の底は、まだ見えない。

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