2015.09.10

闇に香る嘘 下村敦史

闇に香る嘘
闇に香る嘘
posted with amazlet at 15.09.09
下村 敦史
講談社
売り上げランキング: 19,743

大型新人の登場だ。名前は下村敦史、歳は三十四。『闇に香る嘘』で、第60回江戸川乱歩賞を受賞。応募をはじめてから九年目にして勝ち取った、選考員満場一致での受賞であったという。有栖川有栖や京極夏彦ら、名だたる選考員を唸らせた力作である。期待膨らみ、頁をめくる手にも力が入る。

主人公は古希を間近に控えた全盲の男である。娘との関係はうまくない。また、孫娘は腎不全を患い、移植を望んでいる。娘と孫のため、己の腎臓をと適合検査を受けた男だったが、結果は不適合。男は、最後の頼りとして母と同居する兄の元を訪れた。しかし兄は、頑として首を縦にふろうとしない。そこに至り、ふと、ある疑いが男の頭をよぎる。はたして兄は、本当に兄なのだろうか…と。兄弟は戦中、満州で生き別れ、兄は中国残留孤児となり、男は母と共に引き揚げた後、失明した。光を失った今、兄を知る術が、男にない。

「過去から来た男」の登場するミステリーを、久しぶりに読んだ。悪くないなと思う。横溝正史の犬神佐清よろしく、満州から舞い戻った兄はいかにも怪しく、「なりすまし」という単純ながら引きの強い謎が原動力となって、物語は進む。中国残留孤児の歴史的経緯や社会的な課題も併走させることによって、物語は厚みを増し、新人らしからぬ仕上がりとなった。肝心の謎解きの方も、大味になりがちなこの手のミステリーを、きめの細かい伏線ワークで味付けし、申し分なし。

下村敦史は順をおって読んでいこう。次なる目標は警察小説『叛徒』だ。今から、楽しみでならない。

コメント

非公開コメント