2015.10.26

闘争領域の拡大 ミシェル・ウェルベック

闘争領域の拡大
闘争領域の拡大
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ミシェル ウエルベック
角川書店
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新刊がでるたび何かと話題になる作家というのはいるもので、フランス人作家ミシェル・ウェルベックもその一人である。1958年生まれ。詩作活動を続けるなか、1994年、本書『闘争領域の拡大』で本格的に小説家デビューをはたした。

私はこの小説を、青年ふたりのロードムービー、として読んだ。ウェルベックの言うように、『嵐が丘』から遠く離れた、平坦で簡潔で生気のない物語だ。登場人物のひとりは、語り手であり、ソフトウェア会社に務めるアナリスト・プログラマーの「僕」。もうひとりは、同僚ティスランだ。僕は三十歳になったばかりで、ティスランは二十八。これといった社内交流もない二人だが、ある月曜日、自社ソフトの教育係としてコンビを組むことになる。ルーアン、ディジョン、ラ・ロッシュ・シュル=ヨン、フランスの各都市で開催される講習会に、三週間ばかり派遣されることになったのだ。

このティスランという同僚が、いじらしく忘れがたい。ずんぐりした体型と「猛スピードで」後退しそうな頭部。脂っこい肌質のニキビ面に大きな眼鏡をかけ、いつも女の子の注意を引くことに必至になっている「本当に哀れな」この青年が、心揺さぶる。「僕」はないと断言したが、ティスランの「魅力」こそ、この小説の肝ではないか。

クリスマス・イヴのディスコの場面がとびきり良い。ダンスに誘った女の子を、混血の少年に奪われてしまったティスランに、「僕」が声をかける。

それから僕は彼の肩を静かに揺すって、何度か彼の名を呼んだ。
「ラファエル……」
「僕になにができる?」彼は言った。
「オナニーしてこい」
「もう駄目だと思うかい?」
「そうだとも。ずっと前から駄目なんだ。最初から駄目なんだよ。」

自分自身に言い聞かせるかのような「僕」のセリフが、「愛」なき世界で「愛」に飢える青年たち姿を、ロマンチックに映し出す。

フロアには、フランスの歌手ニノ・フェレールのスロー・バラード「ル・スュッド」が流れている。インターネットで検索をかけると、すぐに聴くことができた。良い時代になったな、と思う。

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