2015.11.12

小林カツ代と栗原はるみ 阿古真理

小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代 (新潮新書)
阿古 真理
新潮社
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おっ、と思わずにはいられないタイトルだ。料理書に馴染みある者でなくとも、一度は目にしたことがあろう二つの名前が、表紙に踊る。新書のタイトルにこの二人の名前。インパクトは大きい。

本書は、代表的な料理研究家をピックアップし、時代とともに変化するそのあり様を分析した一冊である。まず驚かされるのは、小林カツ代と栗原はるみ、両名の著作に関する数字だ。2014年に亡くなった小林カツ代が、これまでに出版した書籍の数、230冊。「カリスマ主婦」栗原はるみの書籍累計発行部数は、なんと2400万部以上。どちらも、圧巻と言うほかない。

二人には違いもある。

小林カツ代は、かつて「料理の鉄人」という人気テレビ番組に出たことがあるのだが、そこで彼女は「主婦の代表」という制作サイドのキャッチコピーを固辞したという。家庭料理は主婦だけのものではない。一つのジャンルであり、プロの技であるというのだ。そんな彼女を、著者は「一本筋の通った言論人」であり「アジテーター」であると評する。

一方、栗原はるみは、料理研究家としての顔だけでなく、ライフスタイルのお手本家としての顔も持ち合わせる。「自分自身」であろうとする女性たちのモデルとなり、「アイドル」となった。しかしそれでも彼女は「主婦」であり続ける。「主婦」であること。読者にとって身近な存在であるために、それが大切なのである。

時代による「主婦」像の変化をもってして、二人の料理家を鮮やかに切ってみせた著者は、そのほかにも、江上トミや有元葉子、土井善晴やケンタロウにコウケンテツまで、男女問わず様々な料理研究家たちを紹介し、論じていく。

これは、<生活史>研究の面白さに、目覚めてしまいそうだ。

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