2015.12.24

日本史の謎は「地形」で解ける 竹村公太郎

日本史の謎は「地形」で解ける【環境・民族篇】 (PHP文庫)
竹村 公太郎
PHP研究所 (2014-07-03)
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時間潰しにと手にした本が期せずして刺激的だった、ということが稀にある。読書を趣味とする者にとって嬉しい誤算であり、至福の時でもある。この種の幸運に恵まれた人もきっと多いことだろう。さて、この度私も本書『日本史の謎は「地形」で解ける』で、その恩恵を受ける事になった。

竹村公太郎は1945年生まれ。建設省に入省。以後退官まで主としてダム・河川事業に関わり続けた。インフラ・治水事業のプロフェッショナルである。土木のプロが書く本書は、全18章からなる。「なぜ織田信長は安土の小島に城を築いたのか」「なぜ勝海舟は治水と堤防に関し明治政府を責めたのか」「なぜ日本は海面上昇でも生き残れるのか」といった謎が章ごとに設定され、そこへ<治水>や<交通>といった武器を以ってして挑む。日本史から文明論まで、話は大きく伸び、広がっていく。

第2章に掲載された写真は、忘れがたい一枚となった。湿地列島・日本における「攻め」の治水史を探るなか、竹村氏は<胸まで泥に浸かって田植えをしている人々>の写真に巡りあう。普通田植えといえば、腰をかがめ足のすね辺りの土に苗を植える姿を想像する。ところがこの写真では、上半身まで泥に浸かった人々が手を突き出し、胸より高い位置に苗を差している。現代の田植え姿からあまりにかけ離れたその姿。しかしこうした田植えは、湿地の多い日本において、地域にもよるが戦後に至ってなお珍しくない「原風景」だったという。湿地と格闘する彼らを観、ひっそりとした博物館の片隅で一人、竹村氏は圧倒される。読者もまたしかり。不思議な力感に満ちた風景から目が離せない。

本書では<謎-糸口-解明>という推理小説形式の構成が採用されている。書きあぐねた著者の苦肉の策なのだが、これが功を奏した。娯楽度の高い構成にページを捲る手が止まらない。また、ことあるごとに歌川広重の浮世絵『海道中五十三次』を紐解き閃く姿も名探偵のそれそのもので、痛快。想像力を飛躍させる探偵小説的面白さに満ちた一冊に仕上がった。

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