2016.02.17

イエメンで鮭釣りを ポール・トーディ

イエメンで鮭釣りを (エクス・リブリス)
ポール トーディ
白水社
売り上げランキング: 339,927

本袖の写真の中で、ハンチング帽を被った気の良さそうなおじさんがチェストウェイダーを着て、ひとり釣りを楽しんでいる。彼の名前はポール・トーディ。船のエンジン修理の会社に30年勤め、59歳の時に初めて小説を書いた。それが本書『イエメンで鮭釣りを』だ。2007年、デビュー作である本書で、コミカルな作品を対象にしたイギリスの文学賞<ボランジェ・エブリマン・ウッドハウス賞>を受賞した。

『イエメンで鮭釣りを』はイギリス国立水産研究所に届いた一通の手紙から始まる。イエメンのとある富豪が、本国に鮭釣りを導入したいというのである。

イエメンはアラビア半島の南端に位置する国で、ポール・ニザンの『アデン・アラビア』の舞台もここ。砂の国だ。ふつう鮭が生きていくには酸素を多く含んだ冷たい水、つまり川がいる。でもイエメンは乾燥地帯で、川はワディと呼ばれる“涸れ川“しかない。そんな場所で鮭釣りを、もっと言えば、それを文化できないかというのだ。とても素敵な夢だが、正気の沙汰とは思えない。

話を持ち込まれた水産研究所にジョーンズ博士という人がいて、この人が主人公。もちろん彼は提案をあっさり断るのだけれど、ここからが面白い。プロジェクトは博士の思いをよそにどんどん転がり始めてしまうのだ。本書ではこの鮭釣り導入プロジェクトの顛末が、関係者たちが交わした「やりとり」の記録を通して描き出される。

ポール・トーディは、プロジェクトが雪だるま式に膨らむ瞬間を巧みに切り取ってみせた。冒頭のやりとりがその証拠。最初の手紙には「イエメンに鮭を導入し、娯楽としての鮭釣りを紹介するプロジェクト」としか書かれていない。ところがある時それがメールの件名に登場する。あっという間に「鮭/イエメン」に変わり、「鮭/イエメン・プロジェクト」になって、とうとう「イエメン鮭プロジェクト」なんていうもっともらしい名前が付いてしまう。ふとした事でもメールの件名になることで既成事実化してしまうところが、なんともリアル。最後に首相の「気に入った!」の一言はダメ押し。なんでもないやりとりの中に小説の勘所を織り込んだ秀逸な冒頭だと思う。

中盤以降は人生の悲哀もしっかりと感じられ、川のせせらぎが聞こえてきそうなラストもお見事。

ちなみに読んだ後、映像化希望!などと勇んでいたのだが、『砂漠でサーモン・フィッシング』というタイトルでちゃんと映画化されていた。主演はユアン・マクレガー。イケメンである。

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