2016.09.19

殺人現場を歩く 蜂巣敦・山本真人/ちくま文庫

殺人現場を歩く (ちくま文庫)
蜂巣 敦 山本 真人
筑摩書房
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怖いなと思う。それは本書が、殺人事件を扱ったノンフィクションだから、ということもあるのだけれど、それ以上に、日常を取り戻すこと、日常が帰ってくることが怖い、と思った。

日常が帰ってくるということは、すなわち忘れるということだ。人は忘却し、日常を取り戻す。忌まわしい記憶など、忘れてしまうに越したことはない。でも、だったらどうして、忘れることが怖いのか。

本書は写真とテキストからなり、写真が「日常」を、テキストが「記憶」をそれぞれ担う。どの殺人現場にも、忘却と記憶のせめぎ合いが見てとれる。その渦が奇妙なドライブ感を生む。この得体の知れない波を、感情を、僕たちは不謹慎にも楽しんでいる。僕はこの本が楽しかったのだ。だから、凪いだ日常の訪れを、怖いと思った。忘れたことさえ忘れることが、怖かったのだ。

写真とテキスト、どちらか一方だけだったら、その怖さに気づかなかったかもしれない。一冊の本の中で、ふたつの要素が幸せな出会いを果たしたパターン。

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