2017.02.17

インサート・コイン(ズ) 詠坂雄二/光文社文庫

インサート・コイン(ズ) (光文社文庫)
光文社 (2016-11-25)
売り上げランキング: 40,501

私はスーファミ/プレステ世代で、ハードゲーマーというほどではないけれど、今でもゲームで遊んでいる。もっぱらオフラインで週に何時間か、といったプレイスタイルである。悲しいかな、休みの日ともなれば朝の五時から起き出し、居間にて電源を入れる、なんていうことは、もうない。それでも、思い出したかのようにプレイするのも案外楽しかったりして、ゲームを卒業するなんて、今のところ、夢のまた夢なのであった。

さて、詠坂雄二の『インサート・コイン(ズ)』は、マリオやぷよぷよ、ドラクエといった、ゲームを題材にした青春ミステリーである。取り上げられたゲームを見ればお分かりだろうが、30代直撃の内容となっている。もちろん、だからと言って、文章や内容が古臭いなんていうことでは全然なく、物語はむしろ若々しいほど。謎解きの面においても、「マリオに登場するキノコはなぜ動くのか」などといった素朴な問い立てや、その解釈が生みだす心地よさは、高田崇史や鯨統一郎といった作家の描く歴史ミステリーを彷彿とさせ、この手のミステリーが好きな人は、きっと気に入るんじゃないかと思う。

どの短編も面白いのだけれど、ひとつお気に入りをあげるなら、「そしてまわりこまれなかった」になるだろうか。

「そしてまわりこまれなかった」は、こんな話だ。老舗ゲーム誌に文章を寄せる、26歳を迎えたばかりのライター、柵馬朋康のもとにある日、<ドラクエⅢで最大の伏線が何かわかるか?>、たった一行、そう書かれた年賀状が届く。差出人は、宇波由和。柵馬の幼なじみで、ゲーム仲間だった男である。ところが、宇波はその年賀状を投函した直後、自殺していた。宇波が年賀状に遺した言葉の真意とは。

読んでいて、青春の終わりというのは、つまるところ「引き受ける」ことに始まるんじゃないかと、ぼんやり考えた。この短編には、ドラクエではお馴染みのある定型文が登場する(この言葉の物語への活かし方は、本当に素晴らしくて、センスあるんさな)。この言葉を、柵馬は静かに受けとる。それは、彼が積極的に引き受けた、というよりも、あまりに自然に、あたかも昔からの決め事だった、かのように、彼と彼の過去、これから彼が生きる世界が、友人の遺した、ゲームに登場する決まり文句に、しかしそれゆえに、凝縮され、差し出され、それを、彼は、だからこそ、引き受ける。引き受けるということは、自分の中に他者を招き入れる、ということである。柵馬はその言葉を通じて、友人の人生を、引き受けたのである。

他者を招き入れた柵馬は、もう、かつての柵馬たりえない。だからやっぱり、彼の青春はここで終わるんだと思う。他者を引き受け、柵馬はこれから違う私を、生きなければならない。これを青春の終わりと言わずして、なんと言おう。

しかし、終わりはまた同時に、始まりでもある。彼の青春は終わりを告げた。でも、きっとこれから、彼のあらたな「伝説」が、始まるのだ。

青春ミステリーの名品だと思う。帯で、米澤穂信が推薦文を書いているのだけれど、むべなるかな。

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