2017.03.11

女性作家が選ぶ太宰治 講談社文芸文庫

女性作家が選ぶ太宰治 (講談社文芸文庫)
太宰 治 江國 香織 角田 光代 川上 弘美 川上 未映子 桐野 夏生 松浦 理英子 山田 詠美
講談社
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「女生徒」

この短編を読んで、舞城王太郎という作家を思い出した。どうしてかって言うと、「女の子」が書かれているからなのである。可愛らしさ、って、こういうことなんだろうな、と思う。とても現代的で、そうキュート。

「恥」

ストーカー気質の女性を描いた短編なのだけれど、このちょっと面倒くさそうな人物を、茶目っ気よく書いてしまえるのが太宰治で、バタ、バタと動き回る女性のなんと魅力的なことか。ユーモラスな一編。

「母」

選者の川上弘美が<しびれます>と描いている通り、最後の一行は奇跡ですらある。

「古典風」

こちらも、最後の一行がすべてを物語る。たぶん、ここに作者が書いた(内容でなく文字としての)<幸福>は、真っさらで、純白の澄み渡った<幸福>である。でも、だからこそ、どこか狂っている。<幸福>という言葉のなかには、「本当に?」という、小さくも拭い難い疑念の染みが、いつだって取れずに残されていて、でもそれがゆえに<幸福>が<幸福>足りえているのだとしたら、あまりに漂白された<幸福>は、やっぱり狂気なんじゃないか、と思うのだ。太宰治の意地悪なところを見た気がした。

「思い出」

太宰治は、女性を「女性」としてではなく、「その人」として書けてしまうのだ。だからどの女性も、生き生きとして、おもしろい。

「秋風記」

甘美、と選者の松浦理英子はこの小説を評する。言い得て妙。死はやっぱり、甘い。

「懶惰の歌留多」

それが、書評でも、評論でも、ビジネス文書でも、メールでも、なんだっていいのだけれど、書きあぐねた時は、なんでもいいから書き出してしまうこと。そうすると、案外なんとかなったりするもので、結局は生むが易しなんだよなあ、と思うことが結構ある、というより、毎度である。この精神を体現した短編が「懶惰の歌留多」である。いろはにほへと~、書き出しの頭文字なんて、よそから貰ってきたもので十分。それさえ決まってしまえば、その一語が、一文を生んでくれる。一文が、次の一文を生み、またその一文が、あらたな一文を用意し、生む。繰り返され、ある時、そのまとまりは小説になる。

ちなみに、この短編、冒頭から恨みつらみというか、仕事しない言い訳がつらつらと吐露されている。で、その終わりに<ジッドは、お金持ちなんだろう?>とあって、笑ってしまう。なんだろう、この素直な妬みは。これが、ぽんと書ける太宰治は、そりゃあ愛されるよなあ。

収録作:「女生徒」「恥」「母」「古典風」「思い出」「秋風記」「懶惰の歌留多」

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